2023年11月09日

「ボディメカニクス」とは?基本の8原則のほか、活用例やメリットを解説

人の体を起こしたり、支えて歩いたり、時には持ち上げることもある介護の身体介助。「介助する側には、力が必要で身体への負担も少なからずある」といったイメージをお持ちの方も多いと思いますが、今回は、身体介助を力任せにすることなく、介助する側も、される側も楽に行うことができる「ボディメカニクス」の活用についてご紹介します。

ボディメカニクスについて知ろう

介護の場面では、寝返りや起き上がり、移乗や歩行など、様々なシーンで要介護者の身体を支える必要があります。そこで知っておきたいのが、ボディメカニクスです。寝返り・移乗・歩行など身体介助のあらゆる場面で、ボディメカニクスの活用は介護の基本となりますので、しっかりとした知識と技術を身につけておきましょう。

ボディメカニクスとは

ボディメカニクスとは、「body=身体」と「mechanics=機械学」の造語で、人間が動作するときに骨や筋肉、関節が相互にどのように作用するかといった力学的関係を活用したものであり、介護に携わる人にとっては、ぜひとも身につけておきたいものです。

ボディメカニクスを活用すると、最小限の力で身体介助をすることができますので、介助する側・される側双方の身体的負担を軽減できます。また、ボディメカニクスを身につけておくと、お仕事としての介護だけでなく、育児や家族の看護・介護にも役立ちます。

ボディメカニクスの基本の8原則

①支持基底面積を広くする

体重を支えるために必要な床面積を「支持基底面」といい、これを広くすることで介助する際の安定感が確保できます。足を揃えて直立したときより、肩幅くらいに両脚を開いた姿勢の方が安定するのはこのためです。介護のお仕事の場面では、介護職員が両足を前後・左右の対角線上に大きく開くことで安定感をアップさせています。

②重心の位置を低くする

支持基底面を広くし、膝を曲げて身体の重心を低くすると、安定感がよりアップします。これは介助する側の腰痛予防にもつながります。

③重心の移動をスムーズにする

重いものは一旦持ち上げてから移動させると、重力の影響を大きく受けて重く感じてしまいます。そのため、移動介助の際にはなるべく持ち上げないで、水平方向にスライドさせるようにすると楽に動かすことができます。

④重心を近づける

重い荷物の入ったリュックサックは、肩紐を短くして背中に沿わせると楽に背負うことができます。それと同じように、身体介助では、要介護者と身体を密着することで重心を近づけて安定感を確保し、介助する側の力を入れやすくします。

⑤てこの原理を使う

支える部分(支点)・力を加える部分(力点)・加えた力が働く部分(作用点)の関係を利用すると、小さい力でもしっかり支える介助ができます。例えば、自分よりも体格の大きな要介護者を介助する場合は、要介護者の膝や肘を支点にして遠心力を利用すれば、サッと上体を起こすことができます。

⑥身体を小さくまとめる

同じ重さであれば、大きいボールより小さいボールの方が動かしやすいのと同じで、身体介助でも、要介護者に腕や膝を曲げてもらい、身体全体を小さくまとめてもらうと楽に介助できます。

⑦大きな筋群を使う

身体介助は、腕だけなど一つの筋肉だけでなく、腰・脚・背中といった全身の大きな筋肉を一緒に使うことで、身体の一部分への負担を減らすことができます。

⑧押さずに手前に引く

押す動作よりも引く動作のほうが、必要な力が小さくなります。また、押す動作は腰に無駄な力が入りがちですが、引く動作を意識すると腰痛を予防することも可能です。ただし、腕や洋服などを引っ張ると、要介護者の身体を痛めてしまいます。力任せに押したり引っ張ったりするのではなく、手前に引くことを意識してください。

ボディメカニクスの活用例

立ち上がる

要介護者に椅子に座った姿勢から立ち上がってもらうときには、重心移動を意識して介助をしましょう。はじめに、要介護者の腕を介助者の肩にまわしてもらい、介助者は腰を落としてなるべく重心を下げ、両腕を要介護者の背中にまわします。その後、要介護者に前かがみになってもらい、一緒に立ち上がります。立ち上がったときに要介護者の重心線(重心を通る垂直線)が支持基底面に収まっていると、姿勢が安定しやすくなります。

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身体の向きを変える

ベッドなどで仰向け(仰臥位)になっている要介護者の体勢を変えるときには、身体を小さくまとめてもらい、「てこの原理」を使いましょう。すると、介助する側が小柄でも簡単に姿勢を変えることができます。これをトルクの原理とも言います。

座る

要介護者に椅子などに座ってもらうときには、介助する側は支持基底面を広く取り、要介護者と一緒に腰を落として介助しましょう。そうすることで、双方がより安定して体勢を変えることができます。

歩く

歩行介助では、介助者が要介護者の斜め後ろに立って、歩行を妨げない範囲で身体を近づかせ、バランスを崩したときに支えられるポジションにつくことが大切です。要介護者と密着しすぎると、体重移動・重心移動を妨げてしまい、かえって歩きにくいこともあります(要介護者の身体の状態によって、介助の仕方は異なります)。

ボディメカニクスを身につけるメリット

ボディメカニクスには、以下の3つのメリットがあります。

介護者の身体的負担が軽減される

ボディメカニクスは、介護者が離職する原因にもなる腰痛の防止策として有効とされています。また、最小限の力で介助を行うため介護者の身体的負担が軽減され、年齢を重ねて筋力が衰えても無理なく介護職を続けることができます。長く介護のお仕事を続けるためにも、ぜひボディメカニクスを取り入れましょう。

要介護者の身体的負担が軽減される

ボディメカニクスを用いると、要介護者は力任せに身体を動かされることがなくなります。余計な力が加わったり、無理な姿勢になったりすることもありません。ボディメカニクスは、介護者だけでなく、介護される側の身体的負担も軽減できるのです。

要介護者に安心感を与える

不安定な姿勢になることもなく、力任せに身体を動かすことのないスムーズな介助は、介護される側に安心感を与えます。安心感を得られることで、ストレスが引き起こす行動や介護拒否などを減らせるかもしれません。また「この人の介助なら安心して受けられる」と感じてもらえれば、要介護者との信頼関係も築きやすくなります。

ボディメカニクスを行う際の注意点

ボディメカニクスを介護に取り入れる際には、次の点に注意しましょう。

声をかけながら行う

安心して介護を受けてもらうためには、声をかけながら行うことが重要です。介護される側とコミュニケーションを図り、次の動作に移る際は説明しながら行ってください。負担がかかっていないか、痛みはないかなど、要介護者の様子を確認しながら、その方に合った介護を行うことも大切です。

要介護者にできることはしてもらう

介護全体に言えますが、要介護者にできることは自身でやってもらいましょう。介護者が介助したほうが、時間がかからず要介護者も楽なように思えますが、自力でできることを継続してやってもらうほうが身体機能の維持につながります。

ボディメカニクスを身につけよう

ニチイの「介護職員初任者研修」では、ボディメカニクスを学ぶことができます。全国約13万人のお客様に実際に介護サービスを提供している介護事業者の介護講座なので、実践で役立つスキルを身につけることができます。これまでに累計120万人以上がニチイの介護講座でボディメカニクスを学んでいます! ぜひ、この機会にあなたもニチイの介護講座を受講してみてはいかがでしょうか。

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[初回公開日 2019年09月26日]

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